ゲームパブリッシャー勢はこれまで自分たちの手でeスポーツリーグのを運営・発展させることに尽力してきたが、2024年ついにそれを諦め、競技ゲーミングシーンを残すべく、外部のリーグ運営者らに手綱を渡すことを決めた。これはひとつの時代の終わりにほかならない。
そして、業界が長期的により持続可能になるためのチャンスでもある――手遅れでなければ、の話ではあるが。
次々と自社運営から手を引くゲームパブリッシャーたち
eスポーツ最盛期、イベントやリーグのオーナーを各タイトルのパブリッシャーが務めるのは、業界の支配的モデルだった。ライアットゲームズ(Riot Games)とアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)は、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)やリーグ・オブ・レジェンズ・チャンピオンシップ・シリーズ(League of Legends Championship Series、以下LCS)といった自社リーグにチームを出場させる権利として、何百万ドルというフランチャイズ料金を課すとともに、自らも同じく、壮大なワールドチャンピオンシップやホーム会場での派手なイベントの開催に何百万ドルもの大金を費やしたものだった。
だがこの12カ月間、パブリッシャー各社が明確にしているのは、eスポーツから一歩退く姿勢だ。その代わりに、彼らはサードパーティベンダーと手を組み、リーグの運営を後者に委ねる方向に動いている。たとえば、アクティビジョン・ブリザードは依然、最小限度の人員でコール・オブ・デューティ・リーグ(Call of Duty League)を営んではいるものの、「オーバーウォッチ」と「コール・オブ・デューティ」の下位レベルリーグについては、サウジアラビア企業が有するeスポーツリーグ運営会社のESL/FACEITグループ(EFG)に委ねている。
また、デンマークの企業で、主要なeスポーツリーグ運営企業、ブラスト(Blast)は今年、ユービーアイソフト(Ubisoft)やエピックゲームズ(Epic Games)といった大手パブリッシャーとパートナーシップを結んだ。
さらに、3月第5週末には、古くからeスポーツに最も深く身を投じてきたゲームパブリッシャーとして知られていたライアットゲームズまでもが、ESL/FACEITグループが主催するイベント、eスポーツ・ワールドカップ(Esports World Cup)における「リーグ・オブ・レジェンズ」および「チームファイト・タクティクス(Teamfight Tactics)」にチームを参加させることを容認した。[続きを読む]
ゲームパブリッシャー勢はこれまで自分たちの手でeスポーツリーグのを運営・発展させることに尽力してきたが、2024年ついにそれを諦め、競技ゲーミングシーンを残すべく、外部のリーグ運営者らに手綱を渡すことを決めた。これはひとつの時代の終わりにほかならない。
そして、業界が長期的により持続可能になるためのチャンスでもある――手遅れでなければ、の話ではあるが。
次々と自社運営から手を引くゲームパブリッシャーたち
eスポーツ最盛期、イベントやリーグのオーナーを各タイトルのパブリッシャーが務めるのは、業界の支配的モデルだった。ライアットゲームズ(Riot Games)とアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)は、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)やリーグ・オブ・レジェンズ・チャンピオンシップ・シリーズ(League of Legends Championship Series、以下LCS)といった自社リーグにチームを出場させる権利として、何百万ドルというフランチャイズ料金を課すとともに、自らも同じく、壮大なワールドチャンピオンシップやホーム会場での派手なイベントの開催に何百万ドルもの大金を費やしたものだった。
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だがこの12カ月間、パブリッシャー各社が明確にしているのは、eスポーツから一歩退く姿勢だ。その代わりに、彼らはサードパーティベンダーと手を組み、リーグの運営を後者に委ねる方向に動いている。たとえば、アクティビジョン・ブリザードは依然、最小限度の人員でコール・オブ・デューティ・リーグ(Call of Duty League)を営んではいるものの、「オーバーウォッチ」と「コール・オブ・デューティ」の下位レベルリーグについては、サウジアラビア企業が有するeスポーツリーグ運営会社のESL/FACEITグループ(EFG)に委ねている。
また、デンマークの企業で、主要なeスポーツリーグ運営企業、ブラスト(Blast)は今年、ユービーアイソフト(Ubisoft)やエピックゲームズ(Epic Games)といった大手パブリッシャーとパートナーシップを結んだ。
さらに、3月第5週末には、古くからeスポーツに最も深く身を投じてきた(あるいは、自社運営に固執してきた)ゲームパブリッシャーとして知られていたライアットゲームズまでもが、ESL/FACEITグループが主催するイベント、eスポーツ・ワールドカップ(Esports World Cup)における「リーグ・オブ・レジェンズ」および「チームファイト・タクティクス(Teamfight Tactics)」にチームを参加させることを容認した。
コロナ以降、ゲーミングにかつての勢いはなし
今後のeスポーツリーグ運営企業とのパートナーシッププランについて、ライアットゲームズの広報は明かさなかったが、その代わりに、同社eスポーツ部門トップ、ジョン・ニーダム氏が最近投稿したブログを引き合いに出した。ニーダム氏はそのブログの中で、ライアットゲームズは「チームおよびプレーヤーのサードパーティイベントへの参加という、プレーヤーたちが以前から求めていた機会をよりいっそう解き放つべく、自社の方針と大会の開催計画を調整している」と認めている。
2023年を通じてゲーミング業界を激しく揺さぶった多くの劇的転換の場合と同じく、eスポーツから一歩退くというパブリッシャー各社の決断の背景には、2021年から22年、コロナ禍の後押しを受けて急成長を遂げた後、ゲーミング界が現実世界へと一気に引き戻された、という現状がある。
もっとも、2020年前半にはすでに、eスポーツ業界はいわゆる市場修正の際に立たされていたのだが、コロナ禍のせいで従来型スポーツの活動が極端に制限されるなか、注目が急激に高まったおかげで延命できていたに過ぎない。
コロナ禍後、理由はともかく、消費者のゲーミングに対する関心は薄れ、その結果、2022年から23年にかけて、世界のゲーミング収益は100億ドル(約1兆5000億円)減少した。いまや、ゲーミング企業勢は経営の引き締めに動いており、eスポーツもそれに伴い絶体絶命の窮地に追い込まれている。
リーグ運営企業にとっても価値あるパートナーシップ
そんななか、eスポーツに対して長らく、収益源というよりもマーケティング戦略のひとつとして接してきたゲームパブリッシャーにしてみれば、自社タイトルのeスポーツリーグ運営に外部の手を借りるのは理に適った動きだ。プレイヤーエンゲージメントやゲーム内購入を後押しする活発なeスポーツシーンの利益を総取りできるうえ、人件費やリーグおよびイベントの運営/開催費に何百万ドルもの大金を費やす必要がないからだ。
「パブリッシャーが自身のeスポーツ活動のスケールアップおよびダウンを自社での雇用なしに行なえるのは、これまでよりもはるかにフレキシブルと言える」と、EFGの共同CEOクレイグ・レヴィン氏は話す。「多くの企業がPR会社やイベントエージェンシーを持つ理由と、我々がEFGとの仕事を望むパブリッシャー勢と共に成功を収めようとしている理由は同じものだ」。
リーグ運営の現場にいる者たちにしてみれば、サードパーティモデル台頭の最大の利点は単純に、実入りの良いパブリッシャーパートナーシップを介して、自らも豊かになれる機会が増えることにほかならない。
パブリッシャー勢がそれぞれ自身のeスポーツリーグを営んでいた当時は、サードパーティリーグは基本的に脇に追いやられていた。だが最近は、ビジネス機会が格段に増えている。たとえばブラストは前述のとおりユービーアイソフトやエピックゲームズといったパブリッシャーと新たに提携しており、それにより同社は2023年の創業以来、初めて黒字を記録した。
「現段階におけるブラストの強みのひとつは、我々はいわゆるフルスイート企業だという事実だ。我々には現在多くが目にしているプロダクトをパブリッシャーに提供できるとともに、マーケティングコンテンツやソーシャルサポートも年間を通じて提供できる」と、ブラストのCOOトム・グリーン氏は話す。「我々はユーザー獲得にも、パブリッシャーのファンがいると思われる場所の理解にも、そうしたファンを我々のeスポーツエコシステムに引き入れる術についても長けている」。
eスポーツ業界は独り立ちするとき
サードパーティモデルの台頭は、ある意味、eスポーツ業界の初期の姿への回帰でもある。プロダクトとしての競技ゲーミングは、パブリッシャー勢が絡んでくる何年も前に、メジャー・リーグ・ゲーミング(Major League Gaming)といったサードパーティ企業が始めたものだった。もっとも、2010年代半ば、業界を現在の規模にまで一気に引き上げたのは、続々と参入してきたパブリッシャー勢の力だったが。
とはいえ、ベテランの業界観測筋の間では、そうしたパブリッシャーはあくまでも土足で踏み入り、あぶく銭を取れるだけ取った、というのが一般的な見方だ――そして、取れるものを取ったいま、彼らはさっさと身を引こうとしているのであり、哀れeスポーツ業界は突き放され、真の収益性確立に向けて、よろよろと進んで行くしかなくなったのだと。
「EFGは以前からすべてを仕切ろうと思えばできた。実際、それは可能だったのだが、ライアットゲームズが自営に固執したんだ」と、eスポーツコンサルタントでジャーナリストのロッド・ブレスラウ氏(ハンドルネーム:スラッシャー)は話す。「つまり、LCSを採算の取れるものにできなかったのは、ライアットゲームズの大失態というわけだ。ほかに責めるべき相手がどこにいる?」。
[原文:Why the esports industry’s publisher ownership model is on its way out]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)